僕が中学生の頃、Yは海辺の家に住んでいた。特別仲が良かったわけではないけど、小さな学校だったので、みんなでよく一緒にいた。もう、イニシャルしか覚えていないかもしれない、名前も覚えていないかもしれない、そんな記憶の中の存在になっている。

中学三年夏休みの終わり頃、Yの家、一階のガレージで夕方からみんなでバーベキューパーティーをした。ブルーシールのバニラアイスを食べたあと、何となく二人で浜辺まで歩く。浜辺まで、たった1分。何故二人だったのかを思い出せば、他のみんなはとうに浜辺に繰り出していた。その時、太陽は島の反対側に沈むから残念と彼は言って、僕はもっと早く彼と仲良くなれていたはずなのにとぼんやり考えていた。二階の彼の部屋からは、海が良くみえるのだろうか。

既に夜だった。この辺には夜黄色いロープが海から伸びてきて人を海に引きずり込むらしいとか、浜辺のアダンの木は夜しくしく泣くらしいとか、ニライカナイって黄泉の国と同じって知ってた?とか、戦時中この浜に3人のアメリカ兵が漂着したらしいとか、怪談のような話がいろいろ飛び出した。アメリカ兵については、いや、それは日本兵だったはず、と別の誰かが応えたような気がする。その、兵士たちはどうなったの?島が戦争に巻き込まれないように動いて、ヒーローになったって。それから?その話あまり怖くないんだけど、と僕は思いながら、そういえば、戦争時の島の様子について聞いたことがないことに、気がついた。

うちの祖父母はどんなふうに戦争を生き抜いたのか。二人が話さないから、僕には戦争について語る言葉とその資格がないような気がしていた。他の島で起きた悲劇は海に隔てられた昔の話だった。遠かった。先生たちは、生々しい話を聞かせるけど。

怖いから今日は電気消して眠れない、とYが言ったので、皆で笑った。




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