そのあと僕たちが見る夕焼けは、すべて「ゴールド・フィールド」になった。
-フェリックス・ゴンザレス=トレス「1990: L.A., The Gold Field」(ジュリー・オルト編『Felix Gonzalez-Torres』より、Steidldangin, 2006年)
2013年10月。島に帰った。家族はちょうどその時期ディズニーランドに行くというので、海辺のリゾートホテルに宿泊することにした。
実家から歩いて10分で行ける場所にあるのに、そういえば生まれて一度もリゾートホテルなどに泊まったことがないと気づいて、少し変な気持ちになる。旅行者のふりをしてチェックインしても、つい島のなまりが口を出る。部屋に入って、窓の向こうの青い海が目に入り、今まで知らなかったこの島の美しい風景を知る。海岸沿いにはたいてい防風林があり、島の人々が住む背の低い家々からこのように海をみることはほとんどできない。
ずっと昔アメリカ軍がこの浜辺に上陸して、収容所が作られた。それを想起させるようなものはもちろんない。奇麗な白い砂浜には残酷な記憶がどこか不釣り合いで、僕はその歴史を思う度に少し戸惑ってしまう。
昼寝をして、ビーチを散歩。台風が近づいていて風の強い砂浜は人影もまばらで、空にはあっという間に厚い雲が広がっていく。僕はついYの姿を探すけど現実はそう都合良くいくものではなくて、すぐに海にも飽き、部屋に戻った。夕方、一瞬雲が薄くなってレースカーテンの向こうで海が金色に染まる。ゴールド・フィールドだ、と僕は思う。島にいた時は決して見ることが出来なかった景色。よそ者になって初めて見ることが出来た風景。なんだか悲しかった。それでも、レースカーテンの向こうの景色は、美しかった。