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2014年に那覇で撮った写真が出てきて見返していると、解体中の那覇タワーを写した一枚が見つかった。今は、もうなくなってしまった。ある街の象徴であるタワーが消えてなくなるなど思ってもいなかった。でも、実施に登ったことはなかったし、すっかり様変わりした国際通りを歩いても、懐かしさを覚える場所はほとんどなくなってしまった。三越も、オーパも、国映館もなくなった。

タワーに記された、ゼファーの文字。店名だろうか?ゼファー、西風の神。ギリシャ語だとゼピュルス。iPhoneで調べるとそう出てきた。温厚なそよ風の神らしいけれど、花の妖精クロリスをレイプしたという。そしてその罪を贖うために、ゼピュルスはクロリスを花の女神フローラへと格上げし、花の園に住まわせる。フローラはそこで、幾つもの花を生み出してゆく。彼女はそれで本当に幸せなのだろうか?

その神話を読んで、沖縄の作家・豊川善一が1956年に発表した小説『サーチライト』を思い出す。沖縄の米軍基地のフェンスのそばで男性米兵にレイプされた沖縄人の少年が、屈辱に涙しながらも、次第に米兵に囲われてゆき、綺麗な服を着て化粧をして、彼の相手をする。そのような内容で、発表後すぐに発禁処分となる。米軍統治下の時代だった。安直な結びつけだな、と急いでその考えを振り払う。

東京に戻って、ゼピュルスとフローラについて調べると、オイディウスの詩が見つかった。そこには、フローラがみずからについて語る箇所がある。

私はいつも春を謳歌しています。いつでも一年でもっとも輝かしい季節、木々には葉が繁り、大地はいつも牧草がおおいます。そして野にはわたしの婚資である実り豊かな庭があります。

わたしの夫はこの庭を優雅な花で満たし、『女神よ、花のことはお前にすべて任せよう』と言ってくれました。

何度も私は、いったい何色あるのかと、並んだ花を数えたいと思いましたが、できませんでした。数が及ばないほどにたくさんだったのです。
オイディウス著(高橋宏幸訳)『祭暦』(国文社、1994年)




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