I once had an American boyfriend 4
広島市現代美術館を出る頃には、既に日も落ちかけていた。僕は、ふたたび平和記念公園に向かうことにした。夜に行われるという、とうろう流しを見てみたかったから。美術館のある比治山の頂上から、長い歩道を歩き、長いエスカレーターに乗って、ふもとへ。道なりに辿り着いたエレベーターを下りると大きなAEONがそびえ立っていて、現実に引き戻されながらデュラスの言う「膨大な数の死者とわたしが発明したたったひとつの愛の死を対峙させ」るということについて考えていた。連想したのは、ひめゆり部隊をモチーフにした今日マチ子の「cocoon」において、学徒隊として戦争に巻き込まれてゆくサンとマユの関係だった。沖縄戦らしき南の島で起こった戦争と、一組のティーンエイジャーの、恋、のようなもの。平時では説得力を持たないかもしれない、その関係性。そしてそこで繰り返し語られる、「繭」という囲いについて。
「わたしたちは想像の繭に守られている」「誰もこの繭を壊すことはできない」今日マチ子『cocoon』(秋田書店、2010年)
鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)『デミアン』(新潮社、1951年)
はてしなく長いあいだ、彼は私の目をたえ間なく見ていた。徐々に彼は顔を私のほうに近づけたので、私たちはほとんど触れあうほどになった。(中略)私はすなおに目を閉じた。たえず血が少しずつこやみなく出て来るくちびるに軽いキスを感じた。
同上